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DeNA炎上にみる情報民主主義としてのキュレーションメディア

ご無沙汰しております。商社マン開司です。 

DeNAのキュレーションメディアが炎上しました。

同社はその対応として、炎上のきっかけとなった医療・健康関連情報サイトWelqはもちろんのこと、インテリア・住宅関連情報サイトiemo、女性向けファッション関連情報サイトMery他、すべてのキュレーションメディアサイトを閉鎖しました。

jp.techcrunch.com

www.buzzfeed.com

この事件の評価は様々ありますが、基本的にはDeNAはクソ。あいつらは詐欺集団だ。と言ったネガティブなものが大半だと思われます。そして、そこからさらに対象を広げて、キュレーションメディア自体がクソ・ネット情報の限界、といった論調になっています。

 

しかし、私は世に言われているような、特にマスコミがわけもわからずに叫んでいる様な「ネットキュレーションメディアはすべて悪だ」とする論調には賛同しかねます

「いやいや、著作権侵害をしている犯罪行為だから、どう考えても悪いだろ」と思われるかもしれません。確かにDeNAは、引用という正当な方法を取らずに「リライトというParaphrasing」で誤魔化そうとしており、この問題点を指摘されたことは、当然罰せられるべきでしょう。

しかし、逆に言えば「正式に引用さえすれば、パクリだろうがなんだろうがキュレーションコンテンツをリスクなく量産できる」という意味にも取れます。著作権問題と言うのは訴訟のきっかけであって、問題の本質では無いでしょう。

今回は、キュレーションメディアとは何か、今回の事件の概要、私の考察をの順に、述べたいと思います。

 

1. そもそもキュレーションメディアとは?

そもそもキュレーションメディアとは、美術館等にいるキュレーター(展示品の企画、選定を行う者)からできた和製英語であり「情報をコンテンツ作成者独自の切り口から収集し、取りまとめしたメディア」のことを指します。

例えば、渦中のWelqであれば医療関連・健康関連の豆知識やおすすめ情報を発信していたサイトでした(下図がWelqのトップ画面)

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(画像出典:ハフィントンポスト2016年12月09日 06時47分 JST)

一般的な情報サイトとDeNA他が作成していたキュレーションサイトは何が違ったかというと、大きな相違点として①ビジネスモデルの違い、②SEO精度の違い、という2点が挙げられます。

それまでのネットサイトとのビジネスモデルの違い

Yahooニュースやスマートニュース等の。今となっては「まとも」とされるネットニュースサイトは、基本的にバナー広告、Yahooの場合は動画広告も含めた、広告収入を基本としています。それは記事の内容にかかわらず、ユーザーの動向を追跡した結果に基づくただのバナー広告の枠を用意して、そこの広告主、広告エージェンシーから収益を獲得しているのです。

一方でキュレーションメディアは、広告収入を得ているという点では同じですが、その広告がアフィリエイト広告である点が特徴的でした。アフィリエイトとは、読者をクライアントのサイトに誘導し、サイト内でクライアントが決めた成果(商品の購入やサービスの成約など)を上げることが出来た際、その対価としてクライエントから報酬を得る、という仕組みです。

他にDeNAではMERYの雑誌を発刊したり、特定のクライアント商品・ブランド等とのタイアップを行うことで閲覧毎に広告料を取ったりと、単純なアフィリエイト広告だけではなく、そこからビジネスモデルを拡大させていたようです。

その為決算説明の資料でも、キュレーションメディアはDeNAの「新たな収益の柱」として期待を寄せた発表をしていました。

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(出典:『DeNAが突っ走るキュレーションメディアのビジネスモデルとは?驚愕の広告収益!』DeNA2015年3月期決算説明会資料

DeNASEO対策

また、キュレーションメディアの他の情報サイトとの違いとして、SEO精度の違いがあります。ここが今回の事件で槍玉に挙げられた箇所だと思います。

キュレーションメディアでは一般的に、自分のアフィリエイト収入を最大化するために、可能な限り自分たちのコンテンツが検索結果の上位に来るようにSEO (Search Engine Optimization)を行います。

このSEO対策のやり方が、相当にえげつなく、DeNAキュレーションメディアの存在意義そのものを飲み込んでしまったことが、今回の事件の一番の争点です。

それでは事件を詳しく見ていきましょう。

 

2. 今回の事件概要

事件の発端

今回の事件で起きたこと振り返ってみます。DeNAは11月29日に下記リンク先にあるようなプレスリリースを発表しました。

dena.com

DeNAのWelqの掲載する内容の信憑性を疑う声がユーザーから多く寄せられたとのことでした。「医学知識に乏しい」「薬機法に抵触しそうな記事が多い」「他サイトからのコピペが多い」などと言った声があったようです。

DeNAは当初は「医療に関する専門家を導入して、コンテンツの内容を強化します」と言っていました。しかしその数日後、Welqを始めほとんどのメディアの閉鎖が発表されました。

結局、これらのメディアの内容が、真偽もへったくれもないクソコンテンツだったと、DeNA自身が認めた、ということです。

jp.techcrunch.com

何故この事件は叩かれるのか

それでもDeNAのキュレーションメディアが大量のユーザーを囲い込むことが出来たのは、SEO対策を徹底していたからです。

本件の問題の核心は、クソコンテンツをただ単にSEOのテクニックによるのみで媒体価値を上げ、収益を挙げていたことです。本事件の著作権問題というのは結果解ったことであり、DeNAへの訴訟のきっかけでしかありません。本当は事業者としての倫理を問われている問題なのだといえます。

 

倫理観を問われた事件としてもう一つあるのが、「死にたい」とGoogle検索をすると「【死にたいと思ったときに試して欲しい7つの対処法】」というWelqの記事が表示され、最終的に転職サイトへのアフィリエイト広告誘導される、というものがありました。

「真剣に悩んでいる人から、こんな方法で金を取ろうとするなんて!」という批判を浴びていました。

出典:「死にたい」検索トップの「welq」の記事、DeNAが広告削除 「不適切」指摘受け - ITmedia ニュース

DeNAの3つのSEO戦略

DeNAのキュレーションメディアのSEO戦略は大きく3つあったように思います。

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(1) 多大な分量のコンテンツを作成すること

同社はライターに対して1記事8,000文字というのをルール付けていたと言います。

これには2つの理由があって、1つはGoogle検索エンジンが分量の多いコンテンツを優先的に検索上位に持ってこさせるように作られていたからです。

もう1つはユーザーの検索する特定のキーワードを文章内に散りばめさせることで、Google はキーワードが多く書かれているコンテンツの関連性が高いものと判断し、できるだけ検索結果上位に持ってくるという理由です。

さらに、文字の分量に応じてライターも多く報酬を貰えることから、ライターとしてもそれだけの分量を書くインセンティブがありました。

 

(2) 記事をメチャクチャな頻度でUpdateを行うこと

 Google は、Google botと呼ばれるクローラープログラムを使って世界中のウェブサイトの情報収集をしています。そのクローラーが自身の検索エンジンの対象となるウェブサイトを巡回し、状況を常にUpdateして、良いコンテンツを上位に持ってくる、ダメなコンテンツの順位を下げる、等の判断をしています。

Google botに巡回をしてもらわなければ、自身のサイトの検索結果順位を上げてもらうことが出来ません。

Google botはコンテンツのフレッシュさと更新頻度に反応して巡回を行うことが知られています。

そのため、猛スピードで大量の記事を一気に作成すること自体がSEOに効果があるということをDeNAは見出しました。DeNAではGoogle botの気を引く為に、クラウドソーシングプラットフォームで大量のライターを雇い、1日100記事ほどの記事を作成するまで至っていたそうです。

 

(3) 「ユーザーニーズ」に限りなく答えた記事を作成すること

今ではAdsenseの利用をしなければ利用が制限されていますが、Googleのキーワードプランナーで検索のキーワード(またその組み合わせ)の検索ボリュームを見ることが出来ます。

例えば、あるテーマに関連するキーワード(例えば健康関連であれば「腰痛 治し方」等)がどれだけユーザーが閲覧するポテンシャルがあるかということに当たりを付けることができるのです。

 

同社は、ユーザーが常に検索している=ニーズの高いキーワードの記事を大量生産し、更に多くのユーザー誘導を行っていました。これは、ユーザーのニーズ自体に純粋に応える形でコンテンツが作られてきたとも言えます。

しかし、書いてある内容が事実無根のクソコンテンツであったため、結局はダメダメということになりました。

(出典:『DeNAのウェルク(Welq)のSEO対策を調べ。どうしてグーグル先生は騙されたのか?』DeNA他キュレーションメディアが起こした "事件"は、検索エンジンが資本主義に負けたということ

SEO対策の仕掛人 村田マリ氏

そもそもDeNAがキュレーションメディアを新規事業の柱に据えようと決断したのは、渦中の村田マリ氏のiemo、女性向けファッションキュレーションメディアMERYを運営するペロリを買収したときでした。

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なんと買収額は総額50億円程。DeNAの保有キャッシュが2014年9月末時点で700億円強だったので保有キャッシュの1割近くも本事業に投資をしていたことになります。

(出典:DeNA2015年3月期第2四半期決算短信

各社ニュースサイトでも言われているように、今回の事件には村田マリ氏の関与が非常に大きかったと考えられます。

何故なら彼女が問題のSEOノウハウを持っていたからです。従って、忌むべきはDeNAでもキュレーションメディア一般でも無く、村田氏のSEO対策ということでしょう。

 

確かに同氏のSEO対策は本当に見事なものだとも思います。相当に頭が良いのだと思います。

ドイツ銀行ゴールドマン・サックスは、過去に元本返済可能性の極めて低いMortgage Backed Security (MBS)、いわゆる "サブプライムローン"をあの手この手で売りさばいて市場規模を拡大して自分達の利益を享受していました。その結果、多くの不幸が生まれたことは記憶に新しいでしょう。

たとえ頭の良いやり方でも、やはり法律違反や過剰なSEO対策でのユーザーからの不信は、事業の失敗にもつながるものと言えるでしょう。

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3. キュレーションメディアは悪か?既存マスメディアとの違いは?

既存メディアの各社では、この事件をきっかけにここぞとばかりにキュレーションメディアを叩いています。

ダイヤモンド・オンラインでは著作権侵害に関わる被害に就いて糾弾しているようですし、テレビのニュースを見ていても今回の事件をきっかけに「やはりネットの情報の信憑性には限界があるんでしょうか・・・。」「そもそも書いているのが素人のライターなのだから、情報の確からしさなんて考えてみれば疑わしい」といったコメントであふれています。

 しかし今回の事件の批判は、発端となった特定の会社の倫理感に対してするべきであって、キュレーションメディアそのものに対してするのはお角違いであると思うのです。

 

テレビのニュース自体もいうなればキュレーションメディアです、ネットを使っていないだけで。テレビのニュースでも、自分たちが上げるテーマに基いて取材もするし、新聞記事を集めて、それぞれキャスターやゲストが意見を言う仕組みになっています。

つまり、冒頭のキュレーションメディアの定義に従えば、「コンテンツ作成者独自の切り口から情報を収集し、取りまとめしたサイト・メディアのこと」なので、コンテンツ作成者がテレビ局番組制作部隊であるというだけです。 

なので、彼らがキュレーションメディアをディスり、ネットニュースの信憑性を疑っているのは、「自分たち既存メディアの情報は信頼されるべき情報だ!」と訴えたいだけであるのです。

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(画像出典:フジテレビ とくダネ!

 

4.キュレーションメディアと情報発信の民主化

私はネットのキュレーションメディアは、個人にも情報発信をすることが出来、そしてそれで収益を得られるという意味で、これまで情報発信を独占していたテレビ等の既存メディアから、独立して勝ち取られたものだと思います。

これは言い換えると、情報発信の民主化がネットのキュレーションメディアによってできるということです。

ネットネイティブ世代である私の実感として、皆さんもネット上の情報に信憑性が多少疑わしいことはわかった上で読んでいると思います。皆さんもネットで何か検索した時、その情報を本当に100%信頼しているでしょうか。

我々は引き続き自分自身で情報の真偽は見極めなければならないわけですが、マスメディアのような既存のジジイメディアにとやかく言われる筋合いはないわけです。

自分で調べて、「この情報は合ってそう」「これは違うんじゃないか?」と自分で考え、そしていいアイデアが浮かび、自分で発信したい情報もアイデアもあったら、それを自分のSNSでもブログでも書けば良い。

 

民主的な情報プラットフォームとしてのキュレーションメディアは、もう少し賞賛されても良いのではないかと思います。

 

飽くまでもDeNAがやり方を間違えていただけなのです。