若手医師と商社マンが最強を目指すブログ

平成生まれの帰国子女である3年目医師と4年目総合商社マンがそれぞれの最強への道を虎視眈々と狙う

「偏差値が高い」から医師を目指してはいけないか

天皇陛下の心臓オペをした医師の天野篤先生がPRESIDENTの特集に寄稿している。
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・なぜ「偏差値が高いから医師を目指す」は間違いなのか?
私自身は、高校時代に父が心臓弁膜症を患ったことから、とにかく父を助けたい一心で心臓外科医を目指しました。父は3度の手術を受けましたが、2度目の手術には私も第一助手として立ち合いました。そのとき入れた人工弁が適合せずに、父は3度目の手術を受けることになり、術後合併症を次々起こして1週間後に帰らぬ人となりました。当時35歳だった私は、心臓外科医として父を救えなかった罪悪感と敗北感、無力感に打ちのめされました。それ以来、「同じ過ちは2度とするな」と父が言っている気がして、誰も悲しませたくない一心で技術を磨いてきたのです。


医学部を目指していると「なんでお医者さんになりたいの?」と必ず聞かれる。その返事として、一般的な人が期待する返事は、上記のようなストーリーではないだろうか。

「医者になりたい」という気持ちを幼少の頃に抱いていた読者は少なくないだろう。医者という職業は、野球選手や宇宙飛行士のように「キャラが立っている」ので、夢に描きやすい。日本FP協会が毎年実施している「小学生向け将来なりたい職業アンケート」でも、2014年度に1位だったサッカー選手を抜き、2015年度は医師が男女共に1位になっている。
出典:日本FP協会『将来なりたい職業』ランキングより


僕の通っていた高校は進学校ではなく、医学部を目指している人が身近にいなかった。そこで大学に入学してから、同級生に医学部を志した理由を聞いて回ったことがある。返ってきた回答は意外なものであった。

どいつもこいつも「将来安定してるから」「元々理学部に行きたかったが、親に止められて医学部にした」「親が医者だから」といったような二次的な理由ばかり並べるのだ。僕自身は高校2年生の3学期に、白い巨塔を見て一念発起したクチなのであまり偉そうなことは言えないが、一番多いと思っていた「小さい頃から医者になりたかった」という理由で医学部に入った人が、かなり少数派であると知った時は驚いたものだ。小学生の頃はあんなにたくさん居た、ピュアな憧れで医者を目指していた少年少女たちは、一体どこに行ってしまったのか。

キラキラした気持ちで「お医者さんかっこいい!」と思っていた小学生たちも、中学・高校と進むにつれ、「自分の頭の良さはどれくらいか」という冷酷な事実に直面する。そして医学部が求める偏差値と、自分の現状のあまりに大きなギャップに打ちのめされる。今日の国公立大医学部入学の難易度は、東大・京大と同ランクにある。基本的には、遅くとも中学生から、大学受験で勝つための勉強に相当な時間を注いだ者しか、勝ち残ることはできない。多くの少年少女が、こうして夢の変更を余儀無くされるのだ。

そうした厳しい偏差値生存競争を経ると、キラキラ小学生とは全くの逆のパターンの人達が生き残る。つまり、特に目的意識もなく、親や周りの環境に言われるがまま学校や塾に通っている優等生達だ。ある日、医学部にも行けると気づき、親にも教師にも勧められ「東大・京大行ってもしょうがないから医学部でも行くか」という流れがメジャーだろう。

大学受験に勝ちさえすれば、「エリート意識」「安定した雇用」「安定した収入」を一挙に手に入れることができる。同程度の入学難易度を誇る、東大や京大に入ったからと言って、必ずしも高給が見込める職業に就けるという保証はない。その点、同じぐらいの入試難易度である医学部は、合格さえすれば90%の確率で医者になれる(医師国家試験は相対評価で90%でカットオフ)。そして医者に就職難はないし、稼ぎも良い。若者の安定思考が進んでいると言われる昨今、医学部人気は必然といえるだろう。ジャパニーズドリームここに極まりだ。

そうなると、医者になる上で最も重要な素質は、受験勉強という特に意義のない勉強を、黙って長時間こなす力ということになる。


こういうことを言うと「医者は激務で残業ばかりなので、時給換算すると割は良くない」という反論をしてくる人がいる。その点は僕も同意する。医者よりも「コスパの良い」職業は、他にもきっとあるだろう。しかしここで考えて欲しいのは、医学部を目指すか否かの決断を行うのは、「医師の仕事の内容をよく知らない親」か「世間知らずの高校生」であるというという点だ。

冷静に考えて、18歳の段階で「医者の適正があるかどうか、本当にやりたいことなのか」なんてわかるわけがない。自分の適性があるかどうかなんて、実際に社会に出て働いてみるまで、不明なのだ。これは、日本の医師養成システムが「医学部医学科」という形態を取っている以上、避けられないと考える。

もし本当に「医者になりたいから医学部を目指す人」を増やしたいというのであれば、学士編入(一度普通の大学を卒業してから医学部に入り直す制度)の枠を増やすしかないだろう。現在、一部の医学部で採用されている学士編入は、倍率が50〜100倍とまるで宝くじのような状態だ。万人に勧められるものではない。

または、日本の医学部をアメリカのようにメディカルスクールのようにするという手もある。アメリカの医学部は、基本的には大学院であり、一度一般的な学部を卒業している必要がある。入学選考に際しては、学生の頃の病院での見学やボランティアがかなり重視され、そういう意味ではある程度「医者とはどういう仕事か」という経験が担保されるシステムになっている。

医学部以外を卒業した人が医者になるための門戸を拡大し、逆に医学部を卒業した人でも医者以外の仕事を自由に選択できるようにする。そうすれば「医者がやりたくて医者をやっている人」の割合を増やすことが可能だ。

現実的には多くの医学生が、医者になれば、安定した収入を得られるし、それ以上やりたいことが思いつかないので、そのまま続ける場合が多い。そんな日本人の「生真面目さ」で質が担保されているのが、日本の医療だ。 
 
あなたを診察する医者は、「他にもっといい条件の仕事がないから」医者を続けている。
そしてそれで、特に問題もないのだ。