若手医師と商社マンが最強を目指すブログ

平成生まれの帰国子女である3年目医師と4年目総合商社マンがそれぞれの最強への道を虎視眈々と狙う

無利子だったら、奨学金の返済は遅らせた方が良いんじゃね?

開司です。

医学部の奨学金をまだ完済してない。無利子なんだけど、これって返済を出来るだけ遅らせる方が得なのかな??」

仕事中のある日、Tatsuyaから届いたLINEでした。

私はすぐに「相手の気持ちが変わらないうちに、早めに返した方が良いのでは?」と答えました。

しかし彼は、いまいち納得のいかない様子でした。

ファイナンスの理論上、これはどう解釈するのか、ということが知りたい」とのこと。

今回はファイナンスの「お金の時間価値」「リスクとリターンの関係」の概念にもとづき、この問いに答えることにしたいと思います。

 

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1. ファイナンスの目的は何か

そもそもファイナンスとは何か、ということについてですが、ファイナンス関連ポータルサイトのInvestopediaによると次のように定義されています。

Finance describes the management, creation and study of money, banking, credit, investments, assets and liabilities that make up financial systems, as well as the study of those financial instruments.

(Financeとは、お金、銀行、与信、投資、資産、負債が形成する金融システムについての、またそれぞれの要素についての研究、創造、マネジメント活動のことを指す)

出典:Finance Definition | Investopedia

要するに、キャッシュ(現金)のマネジメント活動のことです。また、そのための理論を研究する学問分野の意味でも使われます(カネを「創造」するのは投資銀行、証券会社等の金融機関です)。

よくファイナンスと言うと、資金調達としての借入や出資引受を想起される方が多いですが、その目的はキャッシュのマネジメントを行うことなのです。

Tatsuyaの場合は、すぐに自分自身で学費を払えないことから、又は両親の出費負担を減らすということを目的に、奨学金という資金調達を行ってキャッシュマネジメントを行っているということです。

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(※画像出典サイト)

2. お金の時間価値に関する基本的な考え方 

お金のマネジメントとしてよく実施されるのが、資金調達、即ち借金や出資受け入れが挙げられます。

借金する場合でも出資受け入れする場合でも、ファイナンスの考え方としてお金の時間価値という重要な概念を考える必要があります。

(1) お金の将来価値

お金の将来価値とは、文字通り将来自分が手にするであろうお金の価値、その金額のことを指します。

例えば、ある事業に投資をするときに、5年後に1億円儲かるという事業計画を作ったとすると、「この事業の5年後の将来価値は1億円」とか表現するわけです。

会社が中期経営計画を策定するときには、今後3年間にどれだけ儲けるかということを考えるわけですが、それぞれの年度に計画しているフリーキャッシュフロー企業価値がその会社の将来価値になるわけです。

(2) お金の現在価値

今手元にあるお金、若しくは目の前にある商品の値札に書いてある値段、それを現在価値と呼びます。

今現在、自分にとって特定のモノ・コトがいくらなのか?ということを現在価値は示しています。

「何をさっきから当たり前なことばかり言ってんだ」と思われるかもしれませんが、実はそんなに単純でも無いのです。

(3) 将来価値と現在価値の関係

例えば、とある銀行で顧客に融資するだけの預金の集まりが不調で、普通預金金利を年間10%にすると発表したとします(三菱東京UFJ銀行は年利0.001%ですのでかなり高いです)。

あなたはここに100万円預けたとすると今後5年間の預金は下図のように増えていくことになります。

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1年後の110万円、2年後の121万円・・・5年後の161万円がそれぞれの、あなたのお金の将来価値になります。

各年度将来価値の計算式は、0年度の100万円を現在価値とした場合に、

FV=PV×(1+金利)^年度

※FV:将来価値

  PV:現在価値

  ^:   べき乗

となります。

方程式の解き方がわかる方であれば、式を組み替えることで現在価値がすぐに求められると思います。

即ち、現在価値とは将来価値を金利(割引率といいます)で割り引いた金額のことをいうのです。数式で言うと下記の通りです。

PV=FV/(1+金利)^年度

つまり、5年後の161万円を上記数式に当てはめると100万円となり、このことを「年利10%の場合、5年後の161万円の現在価値は100万円である」と言えるのです。

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もちろんそれぞれの年度に当てはめても現在価値は100万円になります。金利(割引率)は将来価値と現在価値をつなぐ架け橋的な役割を果たしているのです。(参考:現在価値と将来価値 | オントラック

ちなみに日本にこんな高金利な銀行預金サービスは絶対にありませんが、その理由は90年代の景気低迷以降に、政府が対策として企業への融資を低金利で行えるようにし、投資を促進した為でした。

(参考:日本はなぜ低金利? 定期預金のしくみを基礎から学ぶ

(4) お金の時間価値とは

以上のことから、お金の時間価値を通じて次のことがいえます。

  1. 今ある100万円と5年後の100万円は等価ではない
  2. 将来価値は金利(割引率)を用いて現在価値化できる
  3. 時間が経てば経つほど将来価値と現在価値の差が大きくなる

僕は医師のTatsuyaにファイナンスの本を勧めていました。なので彼もある程度の知識を身につけているはずです。そこで、上記1-3の理由により「金利があるから借金は早く返した方が良くて、自分の場合無金利だから返すのを遅らせる方が得なのでは」と考えたのだと思います。

確かに、時間価値の概念に照らし合わせれば、自分の手元に返済しないだけお金が残るわけですから、返済を遅らせる方が有利なわけです。

金利も無く、単に自分に変わらない負債が残るだけですから、借金は増えも減りもしないはずです。

3. リスクxリターンの関係性

ですが、お金の貸し借りに関して、上記の議論では重要且つ超基本的なことが抜けております。

それは「リスクxリターンの関係性」です。

(1) 年利10%の銀行に預金するリスクとは

思い出していただきたいのは、先程の銀行が高金利で預金者にお金を還元してくれたのは、その銀行にお金が無かったからです。

ですが、そんな宣言をしている財務体質の危うい銀行であれば潰れるリスクだってあるわけです。

つまり、高金利の理由はそれだけ預金者にリスクが伴うからです。

したがって、リスクの大きさに応じて金利(投資家が求めるリターン)は変動するのです。

(2) ソフトバンク社債から考えるリスクxリターンの関係性

ソフトバンクはモバイルの半導体の設計を行うARMホールディングス社を3.3兆円で買収し、この資金の一部を賄う為にハイブリッド債(劣後特約付社債)の発行しました。

この社債は25年償還で最初5年間は年利約3%で発行しています。

私は社債金利情報には疎いですが、個人投資家に対してこれを「高金利な債券」として主幹事会社のみずほ銀行が売り込んだことで当初は710億円と好調な売れ行きを見せたそうです。

ですが、プロの機関投資家にはこの社債はとんと売れませんでした。その理由は、ソフトバンクのリスクとこの利率が合っていないからでは無いかと言われています。

(出典:売れないソフトバンクの社債 | オントラック

ソフトバンクは常に巨額の投資を行っており、過去4年以上フリーキャッシュフローがマイナスです。

借金の返済の元手となるのは、企業で言えば自社が自由に使えるお金、即ちフリーキャッシュフローなのです。

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(出典:ソフトバンクの行く末 | オントラック

一方で、現在の長期有利子負債が2014年3月期以降8兆円を超え、2016年3月期では9.3兆円にまで膨らんでいます。

いくらソフトバンクとはいえ、10兆円近くの借金を、返済の源泉となるフリーキャッシュフローがマイナスとなっている現状には、たしかに多くの投資家はリスクは大きいと見るのも納得がいきます。

つまり、ハイリスクのときにはハイリターンを求める、これも確かにファイナンス理論上説かれていることです。

4. Tatsuyaの問への回答

長々来ましたが、Tatsuyaへの答えとしては「確かに時間価値の考え方に照らせば、返済を遅らせる方が良いという判断になるが、貸し手の立場で見れば返済が遅れることが大きなリスクであることから、借り手にしてみれば追加リターンとして金利を求められるリスクもあり得る為、返せる時に返した方が良い」ということになるでしょう。

非常に当たり前なことですが、こういった理論で持ってファイナンスはお金をマネージする方法を説いているわけです。

何にしても、借りたお金は早く返すに越したことはなさそうです。

参考図書

ファイナンスの内容は確かにややこしい。

そこでわかりやすい参考図書を幾つか紹介しますので、興味のある方は読んでみてください。

初心者編

道具としてのファイナンス

道具としてのファイナンス

 
ざっくり分かるファイナンス 経営センスを磨くための財務 (光文社新書)

ざっくり分かるファイナンス 経営センスを磨くための財務 (光文社新書)

 

 商社マン含め、ファイナンスに多少関わる人からはバイブルと崇められている書籍です。先程からリンクを張って引用元としてお世話になっているのがこちらの著者です。

モルガン・スタンレー投資銀行部門出身、今ではSmartNews社のCFOでエクセル資料の作り方に関する下の書籍で売れっ子となった熊野整氏も、モルスタ時代に「道具としての…」を読んでファイナンスの基礎を身に着けたんだとか。

中級者編

ファイナンシャル・マネジメント 改訂3版---企業財務の理論と実践

ファイナンシャル・マネジメント 改訂3版---企業財務の理論と実践

 

「道具としての…」を読み終わった上で、よりファイナンスの理論について理解を深めたい、という方にはロバート・ヒギンズ氏のこちらがおすすめ。

これもだいぶわかりやすく書いてありますが、米国のビジネススクールで使用するテキストということで、多少基礎的な知識が無いと辛いでしょうか。個人的に面白かったのは最後の補講のベンチャー投資におけるValuation方法です。あまり他でベンチャー向けのValuationについては見たことが無かったので。

上級者編

企業価値評価 第6版[上]―――バリュエーションの理論と実践

企業価値評価 第6版[上]―――バリュエーションの理論と実践

 
企業価値評価 第6版[下]―――バリュエーションの理論と実践

企業価値評価 第6版[下]―――バリュエーションの理論と実践

 

 言わずと知れたマッキンゼーのコーポレート・ファイナンススペシャリストが表した書籍。

とりあえずM&Aやるんだったらこれ読んどけ的なものなのですが、いかんせんアカデミックな要素もあることから、いきなり読む人にはとっつきづらいです。

1990年の初版以来、何度も改版を繰り返すうちに上下巻とも分厚くなっておりますので、内容豊富な最新版を読まれることをおすすめします。

 

今回は、少々固い内容となってしまいましたが、あまり知識のない人にもわかるように頑張って書いたつもりです。

それではよいお年を。